パルシファル   − 聖杯の探求 −   縮小再話版



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  第12章  グラモフランツ

          第三部    聖杯


     第十二章 グラモフランツ


 空が白み、朝が訪れた。ガヴァーンは目覚め,傷だらけの重い体を起こした。ガヴァーンの肌着は、甲冑のさびと血で汚れていた。そばに新しい肌着と厚手の半ズボンや上着がおいてあったので、汚れた肌着をぬいで、新しい服に着がえた。
 ガヴァーンは部屋の外に出て、城の中をあちこち歩きまわってみた。すると、丸い形をした立派な宮殿が見えてきた。宮殿には丸天井の望楼があり、塔のように高くそびえていた。ガヴァーンは宮殿の中に入り,螺旋状の階段を昇った。最上階の部屋に着くと、そこには目を見張るような美しい柱があった。柱は太く、多様な宝石でできているために明るく輝いていて、見る者を圧倒した。しかし、この柱が特別な柱である理由は、その豪華絢爛な装飾ではない。この柱は城の周囲の景色を映しだすことができたのである。柱には、山や町や人々が映しだされていた。ガヴァーンは、この不思議な柱に興味を持ち、しばらく観察しようと思い、近くの窓に腰かけた。
 そのとき、老婦人アルニーヴェと娘のザンギーヴェ、孫娘のクンドリーエとイトニエーの四人がやって来た。アルニーヴェは言った。
 「まだ、寝ていなくてはいけません。傷はまだ治っておりませんよ。」
 ガヴァーンはアルニーヴェを見て嬉しく思い、笑顔で答えた。
 「女王様、あなたのおかげで私はこうして元気になりました。私はあなたのしもべです。」
 「ここにいる三人の女性は王家の出身です。どうぞごあいさつしてください。」
 ガヴァーンは四人の女性の頬に挨拶のキスをした。
 この四人の女性は、ガヴァーンの身内だった。ザンギーヴェはガヴァーンの母、クンドリーエとイトニエーはガヴァーンの妹、アルニーヴェはガヴァーンの祖母なのだが、彼らはお互いに相手が誰なのかわからなかった。ガヴァーンは幼少の頃から騎士の見習いに他家に出されていたので、成人してからの面識はなかったのだ。
 ガヴァーンはアルニーヴェに尋ねた。
 「この不思議な柱はどういうものなのでしょうか。」
 「この宝石の柱は昼も夜も輝き続けていて、周囲十キロメートル以内の出来事は、すべて鏡のように映しだすのです。ここにいれば、周囲のことは何でもわかります。ここは魔法の城ですから、こういうこともできるのでしょう。」

 そのときガヴァーンが柱を見ていると、一人の女性と一人の騎士が馬を進めている姿が映った。
 女性は美しく、この騎士をガヴァーンと戦わせようとしていた。騎士は軍馬に乗り、完全武装して、ガヴァーンと戦うために魔法の城へ向かっていたのだ。
 このときガヴァーンの心の中は、オルゲルーゼを思う気持ちでいっぱいだった。昨日の戦いが終わって、体を動かせなかった時も、治療を受けて横になっている時も、目覚めて散歩をしている時も、ガヴァーンの心はオルゲルーゼへの恋心に支配されていた。それで、柱に映っている女性はオルゲルーゼに違いないと思った。ガヴァーンは聞いてみた。
 「女王様、あの女性は誰だかご存知ですか。」
 「あれはローグロイスの公妃オルゲルーゼです。美しい方です。それにしても誰をねらっているのでしょう。一緒にいるのはトルコイテです。恐れを知らぬ剛勇の騎士と聞いています。」
 「あの騎士は槍を立てて行進しています。一騎討ちをしかける合図です。戦いを望んでいるならば、堂々と受けて立ちましょう。」
 アルニーヴェは、まさかの発言に驚いて言った。
 「今のあなたの体では、一騎討ちは無理です。おやめなさい。」
 「一騎討ちを求めてくる者があれば、名誉にかけても、甲冑をつけなければなりません。」
 「決して戦ってはいけません。あなたが敗れたら私たちの苦しみは増すだけです。それに甲冑をつけたら、傷口が広がってしまいます。」
 アルニーヴェがこう言うと、三人の女性たちも涙を流して、やめるように懇願した。
 「どうか戦うのはやめてください。」
 「一騎討ちをしたら死んでしまいます。」
 「私たちを不幸にしないでください。」
 ガヴァーンは思い悩んだ末に言った。
 「泣くのはやめてください。私に甲冑をつけてください。」
 こう言われて仕方なく、四人の女性はガヴァーンを階下に案内し、甲冑をつけてあげた。 

   ガヴァーンはひどい傷を負っていたので、楯を運ぶのも一苦労だった。馬に乗って昨日世話になった渡し守のプリパリノートのところへ行った。ガヴァーンはプリパリノートに向こう岸の野原まで川を渡してくれるように頼んだ。
 プリパリノートはガヴァーンを馬ごと向こう岸まで渡した。
 向こう岸の野原にはトルコイテが待ちかまえていた。トルコイテは剛勇の騎士であり、名声高く、一騎討ちで敗北したことはなかった。すべての一騎討ちに槍だけで勝利しており、もしも槍の戦いに敗れて落馬させられたなら、女々しく剣を取って戦いつづけることはしない、と公言していた。
 ガヴァーンはプリパリノートに声をかけた。
 「今から対岸の野原で一騎討ちをする。今日も野原の使用料をとるのか。」
 「はい、さようです。それが私の食いぶちなので、負けたほうの馬をいただきとうございます。」  「それでは、トルコイテの馬はお前のものだな。」
 「トルコイテが相手ですか。手強い相手ですね。私はどちらが勝とうとかまいませんがね。使用料をいただけたらそれでいいので。勝負に興味はないのです。」
 ガヴァーンはプリパリノートの身勝手な発言に注意した。
 「こういう時は、お前の舟で渡っているお客の勝利を祈るものだ。」
 プリパリノートは取り繕うように、槍をさし出して言った。
 「はい、ガヴァーン殿の勝利を祈ります。この槍をお使いください。短めですが、硬くて正確な槍です。
 さあ、岸に着きました。しっかりと馬にまたがっていてください。」
 ガヴァーンは岸に降り立つと、トルコイテの姿を見つけた。
 トルコイテもガヴァーンの姿を見ると、すぐに馬を走らせた。ガヴァーンも野原に向かって馬を走らせた。戦闘開始だ。
 二頭の人馬が相手に向かって速度を上げて走りだし、中央で激突した。
 トルコイテの槍はガヴァーンの兜のひもを切った。ガヴァーンの槍はトルコイテの兜の凹凸に引っかかり、兜ははずれて槍の先に残ったまま、兜だけが逆方向に走りつづけた。兜をはずされたトルコイテは、その勢いで落馬し、草の上に投げられた。初めての敗北だった。ガヴァーンはすぐに引き返して、トルコイテのところに来た。
 ガヴァーンは言った。
 「剣を抜いて戦うのか、それとも敗北を認めて、忠誠の誓いをするのか。」
 「忠誠の誓いをいたします。」
 トルコイテはガヴァーンに忠誠を誓った。

 オルゲルーゼが近づいてきてガヴァーンに言った。
 「お喜びのようですが、喜ぶのはまだ早いです。魔法のベッドでは、それほどひどい目に合われなかったのに、そんなにひどいおけがをなさるなんて、ずいぶんと、か弱いお体ですこと。そんなお体ではあちらにいらっしゃる美しい女性たちのところに戻って、子守唄でも歌っていただいて、ゆっくりとお休みになるのがよろしいのではないですか。
 私には、お願いしようと思っている戦いがあるのですが、引き受けていただける勇気はございませんよね。いくら私の愛を求めていても、その弱った体ではご無理だと思います。」
 ガヴァーンは気にせずに言った。
 「公妃様、負傷はしていますが、お目にかかれて傷は軽くなりました。好意をもっていただけるのでしたら、どんな戦いでも引きうけます。」
 「それでは、私について来ていただいて、名誉のために戦っていただきますよ。」
 ガヴァーンはこれを聞いて喜び、オルゲルーゼと連れだって出かけていった。

 遠くからこの様子を見ていたアルニーヴェは嘆いた。
 「あぁ、私たちの救い主は、目の喜びにして心のトゲを、お選びになりました。きっと危険な場所に連れていかれるのでしょう。悲しいことです。あの方が幸運に恵まれますように。」

 ガヴァーンは再びオルゲルーゼとともにいることができ、幸せを感じた。心も軽くなり、傷の痛みも消えてしまった。
 オルゲルーゼは、さっそく次の難題を言い出した。
 「ある木の枝でリースを作ってきてください。それができたら、私の愛を望んでいただいてもかまいません。」
 ガヴァーンは、ついに求めていた言葉を聞いて感激し、即答した。
 「公妃様、あなたの愛が得られるのであれば、その木の枝がどこにあろうとも、必ずリースを作ってまいります。
 公妃様、そのリースを手に入れられるのはどこですか。私の喜びを満たすリースは、どこに行けばあるのでしょうか。」
 「あなたが誉れをあげる場所は、もうすぐです。その場所に着いたら教えます。」

 ガヴァーンとオルゲルーゼは街道沿いに進んでいった。それから林の中に入り、谷に向かっていった。谷は次第に険しくなり、傾斜が急になり、進むことが困難な場所までやってきた。その先は断崖絶壁になっており、下には川が激流となって流れていた。身の危険を感じる場所だった。その崖の向こう岸の奥に、目的のリースとなる木が見えた。
 オルゲルーゼは言った。
 「あの木が見えますか。私から喜びを奪ったグラモフランツという男があの木を見張っています。あの木の枝を一本取ってきてください。今までに誰一人として取って来られた者はいないのです。
 私はここにいます。あなたに神の御心が行われますように。
 ぐずぐずしていてはいけません。馬に乗って、勇敢にこの危険な場所を飛び越えてください。」

 オルゲルーゼは野原で待っていた。
 ガヴァーンは一人で断崖絶壁へと進んでいった。向こう岸までは数メートル。うまく跳躍すれば、渓谷を飛び越えられるかもしれない。ガヴァーンは助走を取るために、いったん引き返し、再び崖に向かって拍車をかけた。馬はこちら側の崖からタイミングよく飛び出した。馬は対岸の崖に向かって足を広げて跳んでいった。前足が対岸の崖の上にかかった。しかし、後ろ足と腹は、崖の壁にぶち当たった。ガヴァーンと馬は川の激流の中へ落ちていった。
 オルゲルーゼはこれを見て、悲鳴をあげて、泣きさけんだ。崖に近づいてみると、ガヴァーンと馬が川に流されているのが見えた。
 ガヴァーンは甲冑をつけていたので、水面に浮いてくるのに時間がかかったが、川にせり出ていた枝をつかんで、力を振りしぼって陸にあがった。馬は川に流されていて、助けられないと思い、あきらめていたが、川には大きな渦が巻いていて、渦の流れに押しもどされて、岸に近づいてきた。ガヴァーンはすぐに馬を引き上げた。
 ガヴァーンは九死に一生を得た。あの崖から川へ転落し、生きて陸へ上がれるとは思わなかった。馬も戻ってきた。ガヴァーンは幸運を感じた。馬を休ませ、馬体の状態を調べたが、無傷だった。奇跡だ。ガヴァーンは馬に乗り、馬体の強さと運のよさに感嘆しながら、目的の木の枝に向かっていった。
 目的の木はすぐに見つかった。ガヴァーンは木の枝を一本折って、兜の上に巻きつけ、リースにした。
 そのとき、美しい姿をした騎士が近づいてきた。グラモフランツ王だった。グラモフランツは、甲冑をつけず、武器も一切もっていなかった。頭には孔雀の帽子をかぶり、緑色のビロードのマントを着ていた。マントは長く、馬の両側に垂れて、地面に触れそうだった。
 グラモフランツは、男盛りの年齢で、尊大な騎士であり、一人の騎士を相手に戦うことはなかった。相手がどんなにしかけてきても、取りあわなかった。相手が二人以上の場合に限り、それを対等とみなし、戦いをするのだ。それほどに自信と誇りに満ちた志をもっていた。
 グラモフランツはガヴァーンに挨拶をした。
 「そのリースをさし上げるわけにはいかない。あなたがもし、二人連れでここに来ていれば、あいさつなど交わすことなく、戦って、この木の枝を守っただろう。あなた一人を相手に戦うことは不名誉なことなのだ。」
 ガヴァーンは相手の尊大な態度を見て、話を聞く必要があると思った。
 「どういうことなのだ。」
 「楯の状態から拝察するに、魔法のベッドで戦いをされましたな。オルゲルーゼが仕向けたのでしょう。
 あの危険な戦いは、本来なら私が行うべきものだったが、オルゲルーゼは私を憎んでいるので、私が魔法の城で戦うことにはならなかった。私はあなた同様、オルゲルーゼの愛を求めて、お仕えしようとしていたのだが、彼女は私を憎むだけで、まったく取り合ってくれなかった。私を戦いの試練に仕向けることは、ついになかったのだ。
 オルゲルーゼが私を憎んでいるのは、私が彼女の夫、チデガストを打ち倒したからだ。私は彼女の幸せを壊してしまった。
 ところで、あなたがここにたどり着いているということは、オルゲルーゼはあなたに愛を約束したのですね。あなたは魔法の城の国王になられましたね。もしそうなら、あなたにお願いがある。手を貸してほしい。」
 ガヴァーンは話の成りゆきが変わってきたのを奇異に思い、尋ねた。
 「どのようなことですか。」
 「私が思いを寄せている女性の愛が得られるように、手を貸してほしい。その人はロート王の娘、イトニエーだ。魔法の城に住んでいる。私の手にとまっているこの鳥、ハイタカは、イトニエーからの贈り物なのだ。あの美しい乙女は私に好意をもっていると確信している。どうか私の思いを伝えてほしい。
 オルゲルーゼに愛を拒絶されてからというもの、ずっとイトニエーが心の支えだった。しかし、不思議なことに、私はイトニエーに会ったことがないのだ。会ったことがないのに、強い愛を感じている。どうかこの指輪を届けてほしい。」
 ガヴァーンは愛の伝令役を引き受けることを厭わなかった。
 「わかった。イトニエーにあなたの思いを伝え、その指輪を届けよう。」
 「かたじけない。
 今はあなたと戦うつもりはない。二人以上の相手でなければ、名誉にならないからだ。」
 ガヴァーンは、伝令役を引き受けてあげたのだから、木の枝で作ったリースのことは相殺されるかと思ったのだが、そうではなかった。相手はそこには触れずに、逆にリースの報復の戦いの話をぶり返しただけだ。ガヴァーンは違和感を覚えた。
 しかし、ガヴァーンは、それはそれとして別の事と考えた。枝を折ったことと、伝令役を引き受けたことを量りにかけることはせずに、自分が言うべきことだけを言った。
 「私もこの枝を手に入れたことを名誉に思うことはやめよう。武器をもたないあなたを打ち殺したからといって、どんな名誉があるというのか。私との一騎討ちを名誉と思わないのなら、名をなのっていただこう。」
 「名をなのらなかったことを無礼に思わないでほしい。私はイロート王の息子グラモフランツだ。父イロートは、ロート王に殺された。しかも、それは一騎討ちの試合ではなく、あいさつをしている時に殺されたのだ。私は父のかたきを討ちたい。父のかたきを討って、父の無念をはらしたい。しかし、ロート王はもう死んでしまったので、かわりに息子のガヴァーンを探しているのだ。
 一人を相手に一騎討ちをすることは、私にとって不名誉なことなのだが、ガヴァーンだけは別だ。ガヴァーンは円卓で名声を博している。いつかガヴァーンに出会って、一騎討ちをする時が来るだろう。それが私の望みだ。」
 ガヴァーンはこれを聞いて、グラモフランツの立場は、自分たち家族に、混乱をもたらすものだと思った。
「あなたは、自分が好きな女性イトニエーとの幸せを願いながら、イトニエーの父ロート王を憎み、その復讐のために、イトニエーの兄ガヴァーンと一騎討ちをしようと言うのか。あなたは自分が幸せにしようとしている人を不幸にしようとしている。それが、わからないのか。
 私はガヴァーンだ。妹のイトニエーが、あなたの恋人であることに、何の価値もないとわかれば、私はロート王のかわりに、あなたからの挑戦を受けて立とう。父の復讐をしたければ、私を相手にするがいい。」
 グラモフランツは言った。
 「あなたがガヴァーンだったのか。ようやく運命の相手に出会った。私が憎しみつづけている相手があなたであるならば、それは嬉しいことだ。すぐにでも一騎討ちをしたい。私はあなたとの名誉ある一騎討ちに、千五百人の女性を観戦させるつもりだ。あなたも魔法の城に四百人の女性がいるだろう。今日から十六日後に、ヨーフランツェの野原に連れてくるといい。そのときに、木の枝で作ったリースの代金も、あなたの命で支払っていただこう。」
 ガヴァーンは承諾した。
 こうして、十六日後にヨーフランツェの野原の試合場で、二人だけの一騎討ちが行われることになった。

 ガヴァーンはグラモフランツと別れ、喜びにあふれてオルゲルーゼの待つ野原に向かって馬を走らせた。彼の愛のしるしである木の枝で作ったリースを兜に巻きつけて、心は弾んでいた。馬は見事に跳躍し、断崖絶壁の川を飛び越えた。帰り道では、川に落ちずにすんだのである。

 ガヴァーンはオルゲルーゼのそばに近づいた。するとオルゲルーゼはガヴァーンの足下に身を投げだして言った。
 「私はあなたに危険なことをたくさんさせましたが、あなたの苦労を見て、私も本当に苦しみました。でも、私はあなたの強く大きな愛に値する女ではありません。」
 ガヴァーンは言った。
 「その言葉が本当なら、それはほめられるべきことです。ただ、これだけは言えます。騎士の掟にしたがえば,あなたは間違った振る舞いをたくさんされました。真の騎士道を心得た者をあなどってはならないのです。あなたは美しい方です。これからは、いかなる騎士をも軽蔑されることのないようにしてください。
 ところで、依頼されたリースをお持ちしましたので、受け取ってください。」
 オルゲルーゼは涙を流して言った。
 「私の愚かな行いをどうか許してください。私は愛するチデガストを亡くして喜びを失ってしまったのです。あの方は、美しく輝き、真の栄誉を望まれていました。あの方ほど才能に恵まれた方はいませんでした。あの方の栄誉は、高くそびえたっています。私の理想の人でした。その人をグラモフランツが殺したのです。
 ここにあなたをお連れしたのも、グラモフランツを打ち倒していただきたかったからなのです。
あなたは、そのグラモフランツからリースを取って来てくださいました。これまで、私があなたを口汚くののしってきたのは、あなたが私の愛を捧げるにふさわしい方かどうかを試したかったからなのです。あなたがお怒りになるのはわかりますが、私はあなたを試していたのです。どうかお許しください。
 あなたは本当に勇敢で、金のように純粋で誠実なお方です。」
 ガヴァーンは言った。
 「オルゲルーゼ様、さきほど、グラモフランツと一騎討ちの約束をしてきました。その時には、あなたの希望をかなえることになります。必ず、グラモフランツの高慢な鼻をへし折ってやります。
 オルゲルーゼ様,私はあなたを許します。ここには、私たちしかいません。私の腕の中へ入ってきてください。」
 オルゲルーゼは答えた。
 「あなたの傷が癒えるまで、あなたと苦しみをともにいたします。ここではなく、ご一緒に魔法の城まで行きましょう。」
 ガヴァーンは喜んで答えた。
 「そうしていただければ、大変嬉しゅうございます。」
 ガヴァーンはオルゲルーゼの手を引いて、馬上に乗せた。
 二人は一頭の馬に乗って、その場を去り、魔法の城へ向かっていった。

 間もなくオルゲルーゼは泣き出した。
 「どうしたのだ。どうして泣くのだ。」
 オルゲルーゼは泣きながら答えた。
 「あまりにも悲しいからです。」
 ガヴァーンは自分は楽しいのに、オルゲルーゼが悲しんでいるのでとまどった。
 「何が悲しいのか、なぜ泣いているのか、教えてほしい。」
 オルゲルーゼは話しはじめた。
 「私の愛するチデガストを打ち倒した男、グラモフランツに復讐しようとして、私に愛を求める騎士を使って、何度も戦いをしかけました。その騎士たちの中に、聖杯の主、アンフォルタス様がいらしたのです。アンフォルタス様は贈り物として高価な品々をたくさんくださいました。魔法の城の門前の商人が売っているものです。アンフォルタス様は私によく仕えてくださいましたが、私の愛のために戦っているときに、ひどい傷を負ってしまったのです。今でも、その傷の痛みで苦しんでいるのです。治療のすべなく苦しんでいるアンフォルタス様のことを考えると、私は悲しくて仕方がありません。
 それから、私はどうにかしてグラモフランツを倒そうとして、費用を惜しまずに騎士を雇い、時には愛をほのめかして騎士をグラモフランツと戦わせたのです。私が頼めば、助太刀を断る騎士はいませんでした。ただ一人だけ、赤い甲冑をつけた騎士は違いました。
 ある時、赤い騎士がローグロイス城にやってきて、私の家来との一騎討ちを申し入れてきました。私の城からは、五人の騎士が応じましたが、五人とも敗北を喫したのです。試合場が船着き場のそばの野原だったので、船着き場の渡し守に馬を五頭とられてしまいました。私は、赤い騎士の強さにほれぼれとしてしまい、この国と私自身の愛とをさしあげたいと申し出ましたが、赤い騎士はお断りになられました。赤い騎士はこう言いました。
 『私には美しい妻がいる。ペルラペイレの女王です。あなたの愛をいただきたいとは思わない。私の名はパルシファルだ。聖杯の探究で忙しいのだ。』
こう言ってあの騎士は去って行きましたが、素敵な方でした。私があの方に愛を打ち明けたことは、間違っていたのでしょうか。恥ずべきことなのでしょうか。それが知りたいのです。」 ガヴァーンは答えた。
 「大丈夫です。その騎士は身分の高い騎士です。」
 ガヴァーンとオルゲルーゼは、互いにじっと相手の眼を見つめた。
 このときすでに二人は城の近くまで来ていた。ガヴァーンは言った。
 「オルゲルーゼ様。城に着いても、私の名前は言わないでください。もし聞かれたら、『まだ聞いていません。』と答えてください。」
 オルゲルーゼは答えた。
 「お名前を知られたくないのでしたら、黙っています。」

   二人は船着き場まで来た。船着き場には、プリパリノートの舟が二人を待っていた。舟にはプリパリノートの娘ベーネもいた。ベーネは二人を舟に招きいれた。
 「大変なご活躍で、皆さん喜んでいられます。甲冑をはずして、楽になさってくださいませ。」
 ベーネはそう言って、甲冑をはずしてあげた。兜をはずし、頭巾をとると、ガヴァーンの素顔が見えた。このとき、オルゲルーゼは初めてガヴァーンの顔を見たのだ。オルゲルーゼは喜び、ガヴァーンの手をとって見つめた。
 舟が城に着くと、大勢の人々が出迎えた。ローグロイス城の騎士たちは、ライオンを倒した騎士の活躍を聞いていたので、二人の姿を見て、大騒ぎをした。歓声を上げて外へ出てきたかと思うと、馬に乗って、二人に向かって走りだした。
 ガヴァーンは尋ねた。
 「あの騎士たちは、私と戦うつもりなのだろうか。」
 オルゲルーゼは答えた。
 「いいえ。あれはクリンショルの軍勢で、あなたの帰還が待ちきれず、歓迎の気持ちがあのような大騒ぎになっているのです。」
 ガヴァーンは安堵した。

 オルゲルーゼはプリパリノートに尋ねた。
 「昨日、一騎討ちをなさった騎士は、どうしていますか。」
 プリパリノートは答えた。
 「リショイスのことですね。元気です。ピンピンしています。あの時。試合場の使用料として軍馬のかわりに、捕虜にさせていただきました。」
 「それは良かった。リショイスは私の大切な部下ですので、釈放していただけないでしょうか。」
 「はい、釈放をお望みでしたら、かわりに何かをいただけたら、喜んでそういたします。」
 「何がお望みですか。」
 「以前に、アンフォルタス様があなたにさし上げた豪華な竪琴をいただけたらと思います。」
 オルゲルーゼはガヴァーンの方を見てから言った。
 「そうですか。竪琴は魔法の城にあります。今やこの城の財産はすべてこの方のものですので、この方に決めていただきましょう。この方が私を愛してくださっているなら、竪琴はあなたのものになり、リショイスは許していただけるでしょう。そして、トルコイテも一緒に放免していただけるとうれしいです。」
 ガヴァーンは即答した。
 「今晩までには、リショイスとトルコイテを釈放し、二人の元気な姿が見られるようにしましょう。」

   ガヴァーンは魔法の城で大勢の騎士の歓迎を受けてから、すぐに治療のために部屋へ退いた。
 アルニーヴェがやってきて丁寧に手当てをしてくれた。
 ガヴァーンは、傷の手当てを受けながら、グラモフランツとの公式の一騎討ちに向けて、準備をしなければならないと考えていた。
 ガヴァーンはアルニーヴェに言った。
 「女王様、使者を送りたいので、誰か一人優秀な小姓を連れてきていただけますか。」
 「わかりました。礼儀正しい小姓を、すぐによこしましょう。」
 アルニーヴェはそう言って、出ていった。

 ガヴァーンは羊皮紙にインクで手紙を書いた。

 「我が主君、アーサー王並びに王妃
 お二人への敬意と忠誠の誓いは、今も変わりません。
 この度、私は大変重要な一騎討ちをすることになりました。
 場所はヨーフランツェ、相手はグラモフランツです。
 この戦いは容易ならぬものです。
 私は騎士の高き栄誉をかけて一戦を交えます。
 グラモフランツは立ち会いに、千五百人の女性を連れてきます。
 アーサー王におかれましても、多くの女性をお連れいただき、
 この戦いを見届けていただきますよう、お願い申しあげます。
 新愛の徒 ガヴァーン」

 ガヴァーンが手紙を書き終えると、小姓が部屋に入ってきた。大変賢く、礼儀正しい小姓だった。ガヴァーンは言った。
 「この手紙をアーサー王に届けてほしい。ただし、私がこの城の城主になったことと、お前がここの家臣であることは言わないでくれ。
 それから、お前がどこへ行くのか、誰に手紙を届けるのか、このことに関することは、一切誰にも語ってはならない。」
 「かしこまりました。」
 小姓は固く約束し、すぐに出ていった。

 ところが、小姓の出立を引きとめる者がいた。アルニーヴェだ。ガヴァーンの様子が気になったアルニーヴェは、小姓の行動をじっと見張っていて、小姓が出発すると、後をつけていって、尋ねた。
 「どこへ行くのですか。何をしに行くのですか。」
 「女王様。私は固い誓いを立てましたので、申し上げることはできません。あしからず。では、行ってまいります。」
 小姓はこう言うと、身分高き騎士アーサー王のもとへ旅立っていった。







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